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存続
小橋 実由
いつか、全て忘れていく。でも、それでいい。
今ここに、確かに 私達は"存続"しているのだ。
ある日盗み見た祖母の10年前の日記。そこで、大好きな明るくお茶目な祖母が今もなお苦しみ続けていることを知った。
それらを無我夢中で、自分の日記帳へと書き写した。
私は記録に記憶の大半を委ねている。
どれほど衝撃的なことでも、いずれ曖昧になる。
忘れていってしまうもの。それらを思い出せるようにと、日記をつけている。
この作品では、そんな日記を全てシュレッダーにかけ、新しいノートに再生した。
絶対に忘れたくない祖母の日記の書き写しを含め、すべてを。
大切なことも、忘れたくない記憶も、強制的に思い出せなくなってしまう恐怖。
それすらも乗り越えて、過去を未来の新しい1ページへと繋げるための試み。
<最優秀賞>
凄まじいの一言。作品が生まれる契機となった祖母の日記には、誰にも言えない苦悩が記されていた。祖母は認知症だから、その事実さえ、なかったものになるのだろうか。作者も普段から日記をつけ、けれど見返さないから、その記録は記憶になり損ねています。祖母を愛する作者は自らの日記をすべてシュレッダーにかけ、認知症による強制忘却の擬似体験を試みます。それは痛みであると同時に、過去の苦しみからの解放でもあります。再生紙としてノートに復活させるプロセスは、希望に満ちた余白を生きるための死と再生のイニシエーションです。映画『千と千尋の神隠し』銭婆のセリフ「一度あったことは忘れないものさ。 思い出せないだけで。」がふと蘇る、人類の普遍的な真理にもにじり寄る素晴らしい作品だと思います。
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