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ケレンミ
田所永悠
仄暗い空間に垂れる古びた布に、ランプが懐中時計の影を作り出す。
静寂な空間に、秒針の音が聞こえてくる。
だが、ここまでくっきりとは実際には映されるわけがない。
アンティークな物品の中にはプロジェクターとスピーカーが仕込まれており、ミスディレクションのごとく目を盗み理想の空間を創り上げている。立ち止まれば「ありえない」と思える空間を。
現実は、つまらないものだ
人は表層ばかりに目をやり、形骸化をして記憶します。質感をおざなりにしてしまいます。
その曖昧さがイデアとなって定着するために、何かを表現するときは、愚直に輪郭をなぞるよりも程良く嘘をつく方が理想に近づくのです。
タイトルにもなっているケレン味とは、物事を誇張や脚色、誤魔化しを効かせることによって、より真実味を帯びさせる演出技法のことです。実際とは異なるけれど、シミュラークルを付加することで真実に寄り添う。頭に描く「そうでありそう」に近づかせる一歩には、嘘が必要不可欠なのです。
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