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​家族の詩

鈴木 雄飛

語ると詩うの間でゆらぐ

地図にない詩的空間

こんなの、人に、伝えられるわけがない。

あの日たしかに、心をふるわせたもの。

語ることを諦めた。感じたことさえ、忘れていた。

 

千と千尋の神隠しの主題歌「いつも何度でも」の

作詞をされた覚和歌子氏に手ほどきをいただいて

“詩”というものに、今年はじめて触れたとき。

表現できるかもしれない。そう夢想してしまった。

気づけば、2ヶ月で16本もの詩を書きあげていた。

 

題材は、誰にも届けることのできなかった、

家族と過ごしたあの日々のこと。

 

これ以上は、もう書けない。

そう思えるものを仕上げ、ある人に見せた。

 

あなたは、大切な何かを、言葉で隠している。

ー そう言われた。

 

あの日々を駆けぬけて、無駄に強くなってしまった僕が

なかったことにした気持ち。見つけられずにいる自分。

いまの僕には聞こえない“生きられなかったわたし”の声。

 

綺麗にまとめてしまったら、また、僕は僕を殺してしまう。

大切なものほど、焦らず、ていねいに扱ったほうがいい。

詩うことのよろこびに充ちた《泉》と

その詩の呼び水となった《願わない》の

2本のみを完成された詩として展示。

どうしても語ることを手放せず

詩になり損ねた14本の詩は

詩えたと直感できた部分だけを残し

あとはすべて、真っ黒く塗り潰した。

​​

ーーー

展示空間は、作者の体内にある

泉という概念空間を再現しており

詩「泉」の内容とも連動している。

中央には60cm四方の泉が設置されており
天井部から垂れる水滴が会場内をこだまする。

泉はスポットライトに照らされ

反射した水影が絶えず白幕にゆらめいている。

室温は20度に保たれ、会場内を漂う湖のような香りは

作者が普段身につけている香水を使用している。

鑑賞者は黒く塗りつぶされた詩を眺めながら
自然と会場中央の泉に誘導されていく。

水溶紙にインクジェットで印刷された

詩「泉」を、中央の泉に浮かべると

文字が水面を漂う姿を目撃することになる。

マドラーで撹拌することで水面が強くゆらぎ

自分が作者と作品を通して関わることで

作者にゆらぎを与えることが実感される。

これは、詩「泉」の中で描かれる

以下の描写が再現されたことを意味している。

​*

あなたを運んできたふくよかな風が

水面をくすぐるたび

自我のさざなみも

透明な織物となってほほえんだ

知らないわたしが編まれていく

まっさらな世界にひろがる

祝祭の波紋

命のポリフォニー

 

わたしは

わたしたちという作品

※2025年「ビビッとググッと展」にて

 展示された作品です。

©2020 by 表現開発ゼミ(デジタルハリウッド大学)

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