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優劣のかなた

鈴木 雄飛

葉っぱと自分が入れ替わった

​あの瞬間は、何だったのか。

こんなの、人に、伝えられるわけがない。

そう直覚し、誰にも語ってこなかった、

自分の気圧の中でしか生きられない

真実のようなものを寓話にしたためました

物語に登場する青年は、僕自身です。

へんてこなおじさんから譲ってもらった

フィルムカメラにまつわるお話を

絵本のような気持ちのいい朗読のリズムで

一種の神秘体験として綴っています。

物語終盤、決定的な出来事が起こります。

森の中で出会った鹿にみつめられ

「この鹿になら​殺されてもいい」

と直感しますが、そうはならず。

森の出口へと向かう最中、

神話的な幻想空間を前に

何時間も立ち尽くす経験をしました。

そのとき、たったひとつの葉っぱが、

どうしても目を捉えて離さなかったのです。

あの美しい葉っぱは、僕自身ではないか。

だとしたら、僕もまた、美しいのではないか。

主客逆転のめまぐるしい一瞬が

いまも僕の心の大切な空間として息づいています。

その瞬間を、寓話と盆栽の作品にしました。

置かれた冊子には物語が綴られ、

盆栽の中には、僕自身を模した小さな人形があります。

構えているカメラの光景はリアルタイムで

盆栽上部に設置された額縁に投影されています。

盆栽にはスポットライトが当てられ

鑑賞者の視覚の外から送られる風が

葉っぱをやさしくゆするたび

映像内の木はたおやかに揺れます。

作者の目にした決定的な光景を

鑑賞者はともに目の当たりにしながら

​寓話に没入する体験を目指しています。

​※2024年「二十数年生きた結果がこれだよ展」

 にて展示された作品です。

©2020 by 表現開発ゼミ(デジタルハリウッド大学)

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